いつもなんか天気が悪い

世界一意識低いけど、自意識は人一倍

初めてまゆげを手入れした日のこと

 

美容アカウントが好きだ。

Twitterで「ビューティー」カテゴリーのツイートをただただ眺めているのが好きだ。

なにもしなくてもキラキラ女子の仲間入りをしたみたいな気分になっている。

 

「女の子って本当にたのし」そうだなあと、田舎の女子中学生がティーン誌のオシャモに憧れるのと同じような気持ちで日々Twitterを見ている。

 

中学生といえば、初めて学校で友達と「デコだし」というヘアスタイルをやってみた時に、

ゴリゴリ坊主で一年中なぜかほっぺが真っ赤な野球部の男子に

「まゆげが・・・」と

ボサボサまゆげを指摘されたことがある。

それまで眉の形など一ミリたりとも気にしたことがなかったが、これにはかなりショックを受けた。

なにせゴリゴリ坊主で一年中ほっぺが真っ赤な野球部の男子にさえ美意識で大敗してしまった訳なので。

 

その夜、早速私は眉毛を整えることにした。

家中探して見つけた、もはや「これはゴミではない」と言う方が難しいくらいに錆びついたカミソリと工作用のハサミで、正しい眉毛の形も全くわからぬまま、顔面上で刃物たちを踊らせた。

その結果、私のまゆげは「もう手のつけようがありません」という程の散々たる様相を呈していた。まあ案の定である。なにも知らない素人が自分で勝手にまゆげをいじくりまわして、生きて帰ってこれる訳がない。

しばらく「これはきっと夢だろうな」と現実逃避をしていたが、毛は一日にしてならず、現実を見なければならない。明日の平穏のためにもなんとかせねばと立ち上がる。

 

思いついた解決方法は3つ。

①ボンドで「植毛」する

②まゆげを描く

③諦めて生えてくるのを待つ

 

まず①は当然なし。思いついた時点で既に候補から外れているし、やる奴はばか。いちいちこんな案を書いている時点で相当頭が悪いし、数が多けりゃいいと思っているだけのカスである。

 

②は一番妥当な案だと思う。が、まゆげカットだけでも焼畑後みたいになっちゃうようなド田舎ハナクソ中学生が綺麗にまゆげを描けるはずがないし、逆にまゆげだけ綺麗に描かれても異様な顔面になること必至である。というか第一にまゆげを描く道具なんか持っていない。

もし当時の私がまゆげを描く道具を所持していようものなら、まずその前に新しいカミソリとまゆげカット用のハサミを買えと言わなければならない。順番を守れ。

ということで、母親の化粧ポーチを漁らせてもらうことにした。が、それらしきものが見当たらない。最もイメージに近いものでいうと、HBのえんぴつが一本出てきたのだが、ジョークにしてもさすがに恐い。

なぜ化粧ポーチにHBのえんぴつが・・・?

HBのえんぴつで顔面に一体何を・・・?

日常的に使用するものでも、出現場所によっては人を戦慄させるものなのだと知った。ペンは剣よりも強し。

 

改めてポーチ内を捜索していく。黒いスティック状の化粧品を発見し「これかな」と思い、回し開ける。キュポッと中から出てきたのはどうやらマスカラのようだった。

が、なぜかマスカラの先端は所々白かった。

マスカラといえば、ティッシュで何度拭っても、思わずつけ過ぎてダマだらけになってしまうようなサービス精神の塊のイメージなのだが、母のマスカラに関しては渇ききって驚くほどパサパサだった。

砂漠在住の人でもこんなにパッサパサのマスカラは見たことないんじゃないだろうか。

かつて黒々とまつ毛を彩ったであろう繊維たちが、ほこりカスのように白くなってブラシにこびりついている。もしも”マスカラのミイラ”という概念がこの世にあったとしたら、それに該当するだろうなと思う代物だった。悠久の時を経たマスカラ、君は一体いつからそこにいたんだい。そっとポーチに帰してあげた。

 

そういや母が化粧をするのなんて、年に何回かだったなと思い出す。

この親にしてこの子ありとはよく言ったものだ。ゴリゴリ坊主で一年中ほっぺが真っ赤な野球部の男子に、美意識で大敗するのが遺伝的に既に決定していたのではないかと諦めがついてくる。

描くのも辞めよう。母の化粧ポーチをこれ以上漁るのはちょっと恐いし、という思いもあり、②も断念。

 

もはやこれまで、無駄な足掻きはやめて諦めよう、大人しくまた生えてくるのを待とうと思った。

 

だが、それは突然やってくる。主に夜中に。

経験がないだろうか、夜中に謎の「勇気」が沸いてくる現象を。例えば試験前日、徹夜中に突然やってくる「なんとかなるっしょ」や、突然髪を短くしたくなって、居ても立っても居られず午前3時に美容院の予約をしちゃうなどの、あの現象である。

 

不幸なことに当時の私の元にもその「勇気」が最悪のタイミングで沸いてきてしまい、さらに良くないことには、

④絶対に諦めない!なんとかして状況を打破する

を採用してしまった。

よっしゃあ!とやる気満々、意気揚々とベッドを飛び出し、手にするは例のカミソリ。やめておいた方がいいぞ〜と理性担当の天使が弱々しく呼びかけるも、謎の「勇気」に取り憑かれた悪魔の暴走はもう止められない。

 

悪魔「黙ってみていろ!なんとかしてみせる!」

 

自らの手で荒らしまくった荒野の地(まゆげの話です)をなんとか整備しようと立ち上がる。道具は粗悪なカミソリ一本。負け確と言っていい。なんならもう既に色々負けている。自暴自棄だったし、無謀な賭けである。

 

案の定、もはや言うまでもないが、結果は惨敗だった。

剃りすぎておかしくなったまゆげをさらに剃っているのだからおかしくならないはずがない。ここまできても「あー夢だったか」と一旦逃避してみる。

見る影も無いまゆげの惨状に目を逸らしたくても、人類は顔面にまゆげとかいうおかしな毛をアホみたいに生やして剃ったり切ったりして喜んでいる変態種族なので、嫌でも目に入ってくる。

 

絶望の最中だったが、ここへきて突如一筋の光が差す。

 

「まゆげの形がおかしくなったのなら、まゆげを無くしてしまえばいいじゃない」

 

私の潜在意識に巣食うマリーアントワネット風眉毛ヤクザの降臨である。「パンがないならお菓子を〜」の圧倒的上位互換と言っていい。

いっそなかったことにすればいいじゃないか。ボサボサまゆげも、荒野も、今日の惨敗も、いっそなかったことにしてしまえばいいじゃないか。錆びすぎてもはや迷彩柄なんじゃないかと思えてきたカミソリの刃を見つめる。心なしか彼も喜んでいるように見えた。

 

こうして、初のまゆげの手入れは「全剃り」という形で幕を閉じた。

 

”全” か ”無” かという潔すぎる漢らしさを遺憾無く発揮した私の美容デビュー戦である。

 

自分の中では「ヒロ(恋空)みたいだなあ」となぜか悪くない評価だったが、周囲には爆笑された。

 

そりゃそうだろうがよ。